神道は日本国民の宗教である

 日本の場合には、祭政の中心は皇室であり、それは古代から近代に至るまで一貫して変わらない。皇室を中心とする祭事と政事とは一体不可分であり、いわば皇室すなわち国家、国家の歴史は皇室の歴史ということが、他の国の専制君主の場合とは全く別の意味での日本の現実であった。神道は皇室の宗教であることはもとよりであったが、一般国民にとっても、広い意味での神道、すなわち伊勢神宮以下諸々の神社を尊崇する国民共通の気持ちがあるという意味において、国民の宗教でもあったわけである。仏教における真言だの、浄土だのと宗旨というものは家によって異るけれど、神棚は如何なる家庭にもあって、祖先を祭るというのが、最近はともかく、従来の一般の習慣であった。しかもそれは軍国主義だの、国家主義だのと少しも関係はなかったのである。

吉田茂『世界と日本』(中公文庫・初版1963年番町書房刊)
「私の〝人造り〟―――皇学館大学のこと 神道は日本国民の宗教である」より