野田秀樹

「南へ」という新作が3月末日まで池袋の東京芸術劇場でかかっていることは知っていた。富士山をイメージする観測所に赴任した火の山の好きな男性が虚言癖の女性に翻弄される。そして大噴火の噂が流れる。どうやらメディアが流す情報の信頼性を俎上にあげた彼一流の脚本かと思えた。そのなかで大震災が起こる。彼は雑誌アエラの「放射能がくる」というタイトル(加えて表紙は防毒マスクのアップ写真で中吊りも嫌な気がするようなつくりだった)に抗議して「ひつまぶし」という連載を打ち切ったという。いまやメディア批判をしっかりできる殆ど唯一の書き手になっている。80年代のあの夢のような言葉遣いは生きている。だいたいの芸能人は仕事がないので売名行為とも思しき募金やら応援メッセージを垂れ流してメディアもそれに乗っている。日々うんざりする情報の中ですこしの間だけ話題になる。「南へ」という作品の存在自体が予言だった。