「座右の日本」と「日本の文学」

知合いのアーティストから勧められたタイ人のエッセイ集を所沢のブックオフで偶然見つける。プラープダー・ユン「座右の日本」(2008年刊 タイフーンブックス)。著者は1973年生まれ。タイの村上春樹という紹介だったが、ムラカミブームには距離を置いていて、「ムラカミを英語で読んだとき、ぼくは彼の文章のスタイルが好きなのか、たまたま翻訳文が好きだったのか、最後まで分からなかった」と、素直に書いている。翻訳の日本語がこなれていることもあって著者の文学的才能が稀有なレベルであることもわかる。まるでドナルド・キーンみたいに日本文化の核心に触れていると思ったところで、「日本の文学」を再読。キーンさんがこのエッセイを書いたのは1952年で30才頃。「…文学の面では、日本の詩は中国のと大概の点で違っていて、日本人は中国人より何世紀も前に小説の見事な大作を書いていたのであり、中国のよりも遥かに優れている日本の劇は世界で最高のものに属する」とは、吉田健一の翻訳。三島由紀夫は解説で、「キーン氏の「日本の文学」は、詩人の魂を以て書かれた日本文学入門で、学問的に精細な類書はこれ以後に出ることがあっても、これ以上に美しい本が出ることは、ちょっと考えられない。」と称賛する。