米国:債務上限問題 上限上げ合意、デフォルト回避へ 2段階2.5兆ドル赤字削減

 【ワシントン斉藤信宏】オバマ米大統領は7月31日夜(日本時間8月1日午前)、米政府と議会民主、共和両党が、政府の債務上限を現行の14兆2900億ドル(約1100兆円)から引き上げることで合意に達したと発表した。合意によると、2段階で最大2・5兆ドル(約195兆円)の財政赤字削減を図る。債務上限の引き上げ期限とされた8月2日を目前にして、ぎりぎりのタイミングで与野党が歩み寄った形だ。早ければ1日中にも上下両院で引き上げに必要な法案が採決される見通しとなり、米国債債務不履行(デフォルト)という最悪の事態は回避されることがほぼ確実となった。

 ホワイトハウスで会見したオバマ大統領は「妥協案は決して満足できる内容ではないが、これでデフォルトを回避し、ワシントン発の危機を終わらせることができるだろう」と述べた。一方、共和党のマコネル上院院内総務は「政府支出を大幅に削減するための枠組みができた」と合意の成果を強調した。債務上限は、上下両院での法案可決を経て、大統領が署名すれば引き上げられる。

 ホワイトハウスの発表によると、合意は、まず10年間で1兆ドル規模の歳出削減で財政赤字を削減し、大統領には13年までに債務上限を少なくとも2・1兆ドル引き上げる権限を与える。さらに今後、超党派でつくる「特別委員会」が1・5兆ドルの赤字削減策について話し合い、11月までに削減策を提案する。共和党の主張に配慮し、増税は明確には含まれていない。

 米政府と民主、共和両党は、7月に入ってから断続的に債務上限問題での交渉を継続。いったんは、富裕層向けの増税にこだわるオバマ大統領と、「増税反対」を掲げるベイナー下院議長(共和)との交渉が物別れに終わるなど、8月2日の期限までの合意が危ぶまれる事態となっていた。

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 ■解説

 ◇なお米国債格下げ懸念
 米政府と議会の民主、共和両党幹部が政府債務の上限引き上げ策で合意し、米国債債務不履行による国際金融市場の大混乱という最悪のシナリオはひとまず回避できる見通しとなった。ただ、巨額の米財政赤字の抜本的な削減に道筋が付いたとは言えず、米国債の格付け引き下げの懸念はくすぶる。米国経済の減速もあり、ドル安とこれに伴う円高圧力は根強く残りそうだ。

 債務上限問題を巡る米政府と議会の議論が紛糾し、混乱が長期化したことは、基軸通貨ドルに対する市場の信認を深く傷つけ、「ドル離れ」が進んだ。消去法的に円が買われたほか、資金の逃避先として、安全資産とされる金が買い進まれ、金相場は連日のように史上最高値を更新した。

 さらに米国経済の減速が世界経済の懸念材料に浮上している。先週末に発表された米国内総生産(GDP)は、11年1〜3月期の実質成長率は前期比0・4%と大幅に下方修正され、4〜6月期も1・3%の低成長にとどまった。6月の米失業率は9・2%と高水準で、住宅市場も低迷が続き、景気の足かせとなっている。

 債務上限の引き上げ問題という当面の難題はクリアしたが、超党派で協議することが決まった追加の1・5兆ドルの財政赤字削減は、合意を優先して具体策を先送りした形で削減を実現できる保証はない。民主党に抵抗感の強い社会保障費削減や、共和党が反発する増税が浮上し、来年の大統領選を控えて、協議は難航も予想される。市場では、米国財政と景気の行方をにらんだ神経質な動きが当面続きそうだ。【ワシントン斉藤信宏】

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 ■ことば

 ◇米債務問題
 国債発行や借入金など米連邦政府の債務は、法律で上限が定められており、現在、債務は上限の14兆2900億ドルに達している。8月2日までに上限が引き上げられないと財務省の資金繰りが困難になり、デフォルトに陥る恐れがある。上限引き上げには米議会両院での可決が必要。【共同】

毎日新聞 2011年8月1日 東京夕刊