唱和の遊び 白雲山人

…要するに李杜の詩句に対して山柿のしらべを以て唱和したのが前著唐詩唱和の趣向であったとすれば、本書はその続編として唐代に限らず中国諸代の詩に対して短歌、俳句、連歌にわたる日本の古典詩型を動員して詩のメタモルフォーシスを展開しようとする企てである。日本は日本、中国は中国と頑なに文化の国境を高くするのではなく、詩歌のこころは国境はおろか言語の障壁をもこえて交流する。しかも古典の前に拝跪する代りに、古人と共にうたい交すのが唱和の遊びである。遊びのいうことばの気に入らない人は、のむ、うつ、かう以外に遊びの極意を知らない人であろう。私見によれば芸術も哲学も遊びである。唯ゴルフやマージャンにくらべると少し高級なようである。本書の読者として期待するのは、このほんの「少し」のちがいのわかる人だけである。

安藤孝行(たかつら)「唱和の遊び 漢詩 俳句 短歌 連歌」昭和49年・桜楓社 自序より