二俣川の家

小学校の低学年まで幼少の数年間を、神奈川県横浜市の借り上げ社宅ですごした。駅からは旧鎌倉街道の尾根道を途中に階段をまじえてのぼり、小学校を過ぎて右方つまり北側にやや下った途中の平屋である。プロパンガスで汲み取り式。砂利道に生垣。広い庭があって木製の物置。南側の家との境には細い杉の木が並んで立っていた。

なだらかな坂道に面したところに門があった。門柱は大理石で扉は鉄でできている。ある日わたしは門柱によじ登り、何を思ったか反対側の門柱にめがけて飛び移ろうとした。まだ小学校にあがってない頃ではないか。準備も何もなく小さい体でいきなりである。とうぜん失敗して落下し頭を強く打った。そして目から火花がでた。

残っている記憶ではそのとき「キツネが出てきた」。夢なのか現なのか、アニメのような絵文字のような「狐の首」が右に左に揺れていた。言葉もまだ持たないころである。異様なイメージは後からキツネだったのではないかと解釈されたのだ。門と狐。幼少期最初の強い記憶である。

40年たって飯田橋のマンションに住んでいたころ。人生最大の危機に陥った時に知人から東の方角に散歩するのがいいとすすめられた。不思議なことだがその真東に後楽園の園内で打ち捨てられた古い屋敷門があった。東京ドームとの境のあたり。そして近くに小さなお稲荷さん。

長野に住む友人からのメールに、家の前にはお稲荷さんと鳥居があるという記述をみつけ、二俣川のころを思い出した。その家の前から坂道を下ると小川があって、小さな蛇などをみつけたりした。尾根筋には雑木林がたくさん残っていた。キツネか何かが出てきてもおかしくない。