李白 詞

 詞’という詩形は、別名、詩余とも呼ばれ、古典的詩形が、五言か七言かに決まっているのに、古代の歌謡のメロディーに乗せて、新たに作られた歌詞であり、宋代に最盛期を迎えたが、この頃は既に曲そのものはすべて亡び、それぞれの歌のリズムだけが残っていた。つまり一節ごとの詩句の語数の記憶だけが。
 そして歌謡の詩句の各行の語数は、歌によって夫ぞれに長短がある。昔の歌の表題によって、行数も各行それぞれの語数の長短も、後世では遊戯的に固守せられるようになった。
 唐代第一の詩人、李白はこのジャンルにも比較的早く挑戦したひとりである。訳者は今、パリにおいて刊行されている「モラリ双書」のなかの『唐宋詩選』の仏訳を参考にして、この訳を試みた。

中村真一郎「古韻余響」(中央公論社 1996年初版) 古韻余響1 Ⅵ 陶潜 田園詩 李白 詞 解説文より