定家の構成法、禅林詩の表現法

 …『中世の文藝』のほうは、のっけに批評と大書した旗印を掲げただけあって、作品の批評、分析、考察がゆきとどいているのはいうまでもない。定家が『新古今和歌集』の排列で試みた、「断(き)れながら連(つら)なり、連なりながら断れる」という構成法が、やがて心敬、宗祇の時代に連歌作法として定着することになったという考察や、「提言と詩句を論理的に結びつけることなく、両者の間にある飛躍ないし断絶こそほんとうの表現だ」とする、禅林詩の「不言の言」という表現法が、時を経て貞享期の芭蕉によって、詩のなかに転生することになったという指摘など、冴え冴えとしたものだ。…

向井敏「壮大な構想を支える確かな批評眼」〜『中世の文藝』(小西甚一講談社学術文庫)解説