「月下の一群」(白水社版あとがき)

 …こう書いてくると、好きな詩なら、何でも訳してきたように、聞こえるかも知れないが、なかなかどうして、事実は、これはと思って筆を染めるのだが、曲りなりにも訳詩らしいものに出来上がるのは、三つに一つもありはしないのである。また好きな詩人でありながら、息がちがうというか、どうしても僕の日本語にはなりがたい種類の詩人がある。ランボオマラルメが、すでに久しく、僕にこの嘆声を洩らさせる。『月下の一群』には、そんなわけでランボオの作は短詩一つさえ入っていない。『酔いどれ舟』の訳をなし得たのは『月下の一群』の後、十年過ぎたころのことである。


堀口大學「月下の一群」白水社版訳者のあとがき 
1952年10月1日 葉山一色の仮寓にて(講談社文芸文庫版より)

 …このとき60歳、最初の第一書房版が出たのは、1925年33歳。